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インタビュー連載「教えて先生!」
中野 宏一 校長先生 編(其の弐

インタビュアー:​令和五年度 PTA「緑会」会長 植田敦

​可能性に満ちた子供たちを「決めつけて見ない」

‐前回のインタビューでは、中野校長先生の生い立ちからユニークな経歴を伺ってきました。ここからは中の先生がお考えになる理想の先生像というのを伺っていこうと思います。

 

わが校の教員にもよく言いますが、まずは生徒を教師自身の考えの中で「この子はこういう子」「この子はこうしたほうがいい」なんて、
浅はかに考えないように、ということですね。
教員の多くは社会に出たことのない人間ですので、ほんとうに狭い世界で生きています。
その教員が、拙い人生経験で学んだ人間のタイプなど、たかが知れています。
ですので、そんな考えで、可能性に満ちた子供たちを「決めつけて見ない」ということが大切だと思っています。
そういう見方しかできないと、生徒を自分の枠にはめたり、自分の知ってる世界の中の基準でその子を計ってしまいます。

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‐今のお言葉は親としても非常に耳の痛いお話だと思います。

 

昔はね、確かに画一的な教育をしてきた時代があったと思うんですよ、私らの時代は。
でも今は違います。たくさんの職業や、たくさんの生き方ができる時代になったんです。そういう時代に、30年以上も前に生まれた親の古い考えを押し付けちゃだめですよ。教師なんて、下手したら生徒と50年くらい年の差があるんですから、もっとですよね。

 

‐本当にそう思います。私は80年生まれで子供が高2ですから、この学校の保護者の中でも若いほうですが、
それでも私のころの大学受験と今の大学受験は本当に違いますもんね。

そうですよ。これからAIの時代になるわけですから、年号がどうだとか、将軍の名前が何だとか、そういうのを覚えてもしょうがないんですよ。知識はもうAIにかなわないわけですから、各教科で学んだ縦割りの知識と知識が横軸でどうつながるのか、
そして、教科書の中で学んだ基礎を使って、自分でその応用をどう体験するのかということが本当に重要になってきます。
昔から言われてきましたが、もう知識偏重の時代はAIの登場で完全に終わったんですよ。

 

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校長室に座ってるだけなら、

人形でも置いておけばいいんです

‐中野先生のお話を聞いていて毎回思うのは、30歳以上若い僕のほうが頭が固いなって本当に感じます。
そういった新しいものへの抵抗が全くない感じや、どんどん新しいものを取り入れようといった感覚はどこで身につけられたのでしょうか。

 

いやいや、そこまでのもんじゃないですが、私は経済学が専門です。経済学って一般的には机上の論理なんですよ。でも実践を大事に教えてたんです。
教科書に書いてある〇〇経済学なんてものは、あくまで知識です。
それが実社会に出て役に立たなかったら意味がないわけです。

‐そうですね、私も経済学を少し学びましたが、ノベール賞をもらったゲーリー・ベッカーのように
高等数学を自分の理屈に合うように"マニュピュレート"して、「人生のあらゆる場面は経済学で解ける」というのには閉口しましたね。

そうです。経済学は机上ではいけないんです。ですので、私のゼミでやって面白かったのを一つ紹介すると、「きのこの山」を海外でどうやったら売れるか、という課題を学生に出したりしてました。
つまり、起業や新規事業、商品戦略みたいな実践的なことをよくやっていましたね。私のゼミの卒業生には日本のトップ自動車会社の役員になった子をはじめ、社会をけん引する立場になっている人が何人もいますよ。

 

‐そういう方は、先生の実践的経済学に学んだところが大きかったのですね。

そういう意味でも先生は現場主義という側面が強いのですが、この学校でもよく授業中の教室や放課後の自習室をのぞかれていますよね。

 

校長室に座ってるだけなら、人形でも置いておけばいいんです。ほかにも、敷地内に何か問題がないか見て歩いています。
このあいだ、南側の校門までの通路が夕方以降暗かったので、明かりを付けるようにしました。自習室で遅くまで残った子が安心して学校を出られるようにしなきゃいかんですから。

‐私たち保護者が校内の草刈りをやるといった時にも、駅からの通学路を掃除するといった時にも、中野先生はすぐ「私も参加する」っておっしゃってましたもんね。本当に先生はアクティブな方です。
私が先生に感銘を受けたほかのエピソードとして、栗木京子さんの歌の話があります。

もう一度そのお話をしていただいてもよろしいでしょうか。

人生で一回きりの青春の時代を1日1日大事に生きてほしい

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この学校では何度も言っていることなんですが、
「観覧車 回れよ回れ 思い出は君には1日 我には一生」という教科書にも載っている歌があるんです。
これはいくつもの解釈がとれる、すばらし歌なんですよ。


もちろんもともとの意味は、片思いの主人公が観覧車に乗った時の風情という解釈があるんですが、私はこれを生徒に対して言う時、そういう時は、中学・高校という人生で一回きりの青春の時代を1日1日大事に生きてほしいと語り掛けます。
みんなの人生はこれから観覧車のようにずっと続いていくわけだけど、一生のうちに一回きりの青春なんだぞ!って。

でも、教員に対して語るときは、また違う見方で話します。
学校や教員から見たら、毎年入ってくる生徒の1人、なん十期もある学年の1つ、と見えるかもしれないが、そういう風に考えちゃだめだ。その子にとっては大事な青春の一瞬なんだ、って。私みたいに何十年も教員をやっている人間は特にですけどね(笑)

親御さんが愛情込めて育てたお子さんの、人生の春の時期にお預かりするわけですから、私たち教員というのはそういう意識を常に持たなきゃならん、と。

先ほども言ったように、学校教育というのは変わらなきゃいけない時に来ています。知識を伝えるだけの時代はもう終わりました。
そういう意味で、私の残された任期の中で、できるだけのことは附属の生徒たちにしてあげたい、そいうつもりで毎日おります。

 

 

中野先生のパッションあふれるお話と、そのバイタリティーにはいつも圧倒されていましたが、このインタビューの中でもその真骨頂が表れていたと思います。そして、本当に子供たちが好きなんだなぁということも改めて感じました。

ご自身の専門とする経済学同様、実践第一主義を貫かれ、校長室の外が主戦場であるということを自らに課されている中野先生の行動力や実行力によって、ますます神大附属が発展していくことを確信したインタビューでした。

(インタビューは23年に行われれました)

神奈川大学附属中・高等学校  PTA緑会

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